データサイエンティストAnchorBluesのブログ

とある民間企業で数学とコンピュータサイエンスをやっている研究員のブログです。

海水の塩分について

海水の塩分ってどれくらい?

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(画像はhttp://ocean.fs.a.u-tokyo.ac.jp/forpublica2.htmlより引用)
上図は、1年間で平均した海面塩分の値を示しています。
単位は‰(%の十分の一)です(現代の海洋物理学では、塩分の単位に‰の代わりにpsuを用いることが多いです[後述])。

この図を見ると、場所によって異なりますが、だいたい平均すると海水には大体3~4%程度の塩分が含まれているということが分かります。

一番塩分が低い場所(例えばインド亜大陸の東に位置するベンガル湾や、太平洋の経度帯における北極海など)でおおよそ30‰、それに対して一番塩分が高い場所(例えばインド亜大陸の西に位置するアラビア海や、亜熱帯大西洋、地中海など)でおおよそ40‰です。

これを聞くと、「塩分て世界中の海でだいたいどこも一緒なんやなあ」という感想を持たれる方も多いでしょう。
確かに、塩分の3%と4%の違いなんて、人間の味覚からしたら本当に微々たる違いです。
恐らく「舐めて3%の塩水か4%の塩水か分かる」という人間は一流シェフでもなかなかいないでしょう。
しかし、海に関しては、この1%はおろか、1‰ の違いが、地球の気候に変動を及ぼす可能性すらあるのです。
詳しくはまた時間があるときに書きたいと思います。

海水の塩分の単位「psu」って何?

psuとはズバリ、「Practical Salinity Unit」の略です。直訳すると「実用塩分単位」。
この単位が一体何を表しているのかを理解するために、まずは海水の塩分測定の歴史を紐解いてみましょう。

従来、塩分は海水に溶けている固形物質の質量(g)と海水の質量(kg)との比であると定義されておりました。単位はg/kgすなわち千分率(‰ :パーミル)でした。
つまり塩素の化学的定量によって塩分を求めていたわけですね。
因みに、このように海水の塩分を「海水1kg に塩分がどれくらい含まれているか」で表したものを、「絶対塩分(Absolute Salinity)」と言います。
ところが、化学的定量には手間がかかり、しかも正確に測定するのも難しいというのが現状でした。

そのため、1960年代に液体用の電気伝導率計が発達すると、塩分濃度は電気伝導率で計測するようになりました。
しばらくは電気伝導率から塩分濃度へ換算するという方法をとっていましたが、次第に精度の高い変換をするということが難しいということがわかってきました。
そこで、塩分濃度に換算するという方法を諦め、測定した電導度そのものの数値を塩分とすることになり、1982年以降はその数値を「実用塩分(Practical Salinity)」と呼ぶことになりました。
もう現代では、海水に関して塩分濃度と電気伝導率を関連づける式は存在しません。

矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、実用塩分には単位がありません。psuと言うのは電気伝導率の単位ではないのです。
どういうことかというと、実際に計測された海水の電気伝導率そのものが実用塩分(psu)というわけではなく、その電気伝導率と「塩化カリウムの標準液」の電気伝導率の比を実用塩分と呼んでいるのです。 ですから、敢えて「実用塩分の単位って何?」という問いに応えるとしたら、それは‰になります。 しかしその意味合いは絶対塩分の単位‰とは全く異なります。普通、実用塩分の単位に‰は用いません。 「これは絶対塩分ではなくて実用塩分の値ですよ!」ということを明示するために、psuという文字列を単位のように使っているのです。
なので、「実用塩分の単位はpsuである」というのは、実は正式なものではないのです。

で、このページの上部に掲載してある塩分分布、単位が‰になっていますね。つまりこれは絶対塩分で表した分布ということになります。
「今は絶対塩分じゃなくて実用塩分を使っているんやろ? じゃあ実用塩分で書かれた図を見せろや」という主張がもしかしたらあるかもしれません。
しかしご安心を。実用塩分(psu)と絶対塩分(‰)は、数値としてはほとんど一緒の値を示すのです。というか、そのようになるように実用塩分を設定したのです。
もっと詳しく言うと、実用塩分値35(psu)は、絶対塩分値35(‰)と同等です。そして35psu以外の塩分についても、実用塩分(psu)と絶対塩分(‰)の数値の差は非常に小さくなっております。

ですから、逆に単位psuで書かれた塩分マップが手元にあるとき、例えば36psuの塩分の海水は「だいたい36‰の塩分濃度である、つまり海水1kgあたり36gの塩分が含まれているような濃度である」と考えて差し支えはありません。

引用文献